تسجيل الدخولムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。
これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。
大きい方をした後のエチケットだ。
もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。
部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。
さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。
ムツヤは知らない事が多い。
触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれば一吸いで昏睡状態に。ゆっくり深呼吸すれば次の瞬間にはあの世へ行っている毒ガスだと言うこと。
触手で触られれば痒みを感じるどころか、その部分から細胞の壊死が始まり体が腐り落ちる事を。
それでは、何故ムツヤは平気なのかと言うと、おそらくどんな病気も治す幻の秘薬を小さい頃からジュース代わりにガブガブと飲んでいるからだろう。
長年気持ち悪いと思っていたトカゲが消えて、ムツヤはもっと早く倒しておけば良かったかと思いながらもちょっとした喪失感を感じた。
ヤツが居た場所には鱗が数枚落ちていて、変わった匂いも、触って皮膚がどうこうなる事も無かったので、とりあえずカバンにしまって階段を登り始める。
ここから先は未知の場所なので少しだけ身構えたが、そんなムツヤの心配は杞憂に終わり、どのモンスターも一撃で真っ二つに出来た。というか素手でも倒せるぐらいに弱い。
それから塔の内部の森を抜け、砂漠を抜けてこれまた1時間もしない内におそらく最上階付近まで来た。
そこには開けた広間があり、天井からはガラス製の燭台がいくつも垂れ下がっている。
床にはフカフカの赤い絨毯が広がっている。そして奥の大きな扉の前の豪華な椅子に何者かが座っていた。
「あー、やっと登ってきたのね」
突然の声にビックリしてムツヤの視線は釘付けになる、人影だ。
暗闇の中で蝋燭の光を浴び、黄金色に赤みを含ませて照らし出される椅子、そこから誰かが立ち上がるのが見えた。
剣先をそちらに向けたまま姿をよく見てみる。
一歩一歩近付いてくる相手は自分とは違う褐色の肌、長い髪は真っ白。
だが同じ白髪でもじいちゃんとは違う感じだなとムツヤは思った。
なんというか高級感がある。例えるならたまに拾う上質なローブの様な感じの艷やかな髪だ。
目の上や唇、爪などは毒々しく紫色で、火に照らされて怪しく揺らめいていた。
纏っている触り心地の良さそうな上質な服は、たまに塔の中で拾い『それは女が着るものだと』教えてもらった服と似ている。
それらは外の世界の本で挿絵のヒロイン達が着ている『ドレス』や『ローブ』に似たものだった。
目の前の人間が着ているのは、無理に例えろと言われればローブが近いだろうか。
胸を隠しているが、胸元ははだけさせ、胴体は布を纏わずに、腰から床付近までを長い布がぐるりと覆い、横に切れ目が入っている。
その面積が少ない布が支える胸の筋肉ではない2つの大きな塊と、何故か分からないがドキドキするこの感じ。
この鼓動は相手の正体がわからないからという理由だけではないと直感でわかった。
戦いでなる鼓動とは少し違う、この感覚はどちらかと言うとあの小説を呼んでいる時の感覚に近い。
そうだ、小説の挿絵や描写と照らし合わせても完全に一致だ。
その相手はムツヤが初めて出会う女という生き物だった。
「あ、お、あ、えっと、は、はじめまして俺じゃなくて、私はムツヤと言いまず!」
外の世界に出た時の挨拶をずっと練習してきたはずが、さっとその言葉を言えずムツヤは顔が赤くなってしまった。
「はじめまして、ねぇー…… 私は『はじめまして』じゃないつもりだったんだけどもな~」
そう言って女は近づいてくる。
最上階付近ということもあり、知能の高いモンスターの可能性は捨てきれないのでムツヤは剣を構えたままだ。
人のようなモンスターはよく見かけたが、奴らは言葉も話さず襲いかかってくる。
だが、今回はそうではない。
今のムツヤには相手の正体が誰かわからないままだ。
「私の名前はサズァン、いわゆる邪神様ってやつよ」
邪神。外の世界の本の中にも書いてあった。
ムツヤの中で邪神というのは、人を呪い、時には殺すよりも残酷なことをするらしい何か凄くヤバイ奴ぐらいの認識だ。
「その邪神様が何のようでごじゃ、ございますでしょうか」
相手をからかっている訳ではない。
ムツヤはいたって真面目だが、慣れない尊敬語を緊張しながら使った結果このような言い方になってしまったのだ。
するとサズァンは口元を手で隠してクスクスと笑い始めた。
「あらぁん、やだわぁん、負けちゃったのね」 精も根も尽き果てているモモ達はその声を聞いてイラッとした。 アシノは無言でビンのフタを連射する。 オカマ魔法使いのウトナは防御壁を作って難なく過ごしたが、その後ろで「いでででで」と声が聞こえた。「ウドナ様、オラも守ってほしいだ!」「お黙り! その鎌を振り回して弾きなさい!」 声の主は若い娘、見た感じ俗に言う芋娘で、ムツヤよりも鈍った言葉を使う。「だっで、鎌に鎖が付いてるだけでほんどに裏の道具なんだべやか?」「探知盤にも反応してるし裏の道具よ!! はやくあいつらをやっちゃいなさい!」 芋娘はうぅ。と言いながら前に出てくる。「食らいなさい、プリティビーム!!」 ウトナは裏の道具の杖を使い、感情を暴走させる光線を乱れ打ちした。 所々で爆発音が聞こえるので通常の攻撃魔法も混ぜているのだろう。 それぞれ丈夫そうな木の裏に隠れて魔法攻撃をやり過ごす。 ウトナの後ろでは芋娘がグルグルと鎌を振り回し始めた。謎の多い武器なのでこれが合っているのか本人ですら分からない。 しかし、そこは摩訶不思議の裏の道具。鎖の部分が飴細工のように伸びて攻撃範囲が広くなる。「いいわぁん、やっちゃいなさい!」「へい!」 ガスっと木に鎌が刺さると鎖が縮み始め。「あああああぁぁぁぁ!!!」 鎖を手に絡めている芋娘はそこ目掛けて吹っ飛んでいった。「ふばち!」 そして木に激突し、下の茂みに落ちる。「なにやってんの!」 ウトナはイライラして言う。 そして、茂みから出てきたと思ったら、ヨーリィに右腕を後ろで拘束され、首元にはナイフが近付けられていた。「本当になにやってんのおおおぉぉぉ!?」「プリティビーム!!!」 ウトナはヨーリィに対してダメ元で杖を振る。 ヨーリィはこの杖は効かないのだから避ける必要もないのに、容赦なく芋娘を盾にした。「亜人共をぶっ潰す! 亜人共をぶっ潰す! 亜人共をぶっ潰すんだべ!」 一応はキエーウのメンバーらしく、亜人を憎んでいることがわかる。 ウトナは呆れて頭を抱えたが、懐の連絡石が震えた為、作戦を切り替えた。「さっさと道具を返しなさい!」 ウトナは爆破魔法を芋娘ごとヨーリィに喰らわせようとする。間一髪ユモトの防御壁が間に合う。「あんた! 仲間じゃないの!?」 ルーが言うとウト
モモは氷水を浴びせられた様にぞわっとし、体が動かなくなった。「献身的で、回復魔法が上手で誰からも好かれるような妹でした」 男は侵食されて指先から黒くなる手を見つめる。「亜人達の強盗団に夜襲を受けて、仲間は死に、妹も身ぐるみをはがされた後。辱しめられ、首を折られて絶命しました」 自分の中に暴力的な力が目覚めている事を男は感じていた。「それを聞いて思いました、キエーウへ入り、強盗団の亜人を含め、全ての亜人を惨たらしく殺してやると」 時間稼ぎは成功した。皆が男の話に聞き入っている間に裏の道具は男の体を侵食し終える。「それは気の毒に思う。だが全ての亜人に罪はないだろう!?」 アシノが言うが、言葉は既に男に届かなくなっていた。「ウオオオオオオ!!!」 獣のような唸り声を上げ。男はモモに斬りかかる。 間一髪、無力化の盾で防ぎ、衝撃は感じずにいられた。しかし、剣が産み出した風がその威力を物語っている。 次に男は盾を地面に突き刺した。先程とは比べ物にならない速度で盾は大きくなり、モモ目掛けて倒れた。「まずい、みんな逃げろ!」 無力化の盾はあくまで物がぶつかる衝撃を消すものであって、重い物の下敷きになれば潰されてしまう。 急いで逃げて盾をやり過ごすと、アシノ達は攻撃に転じる。「貫け、氷柱よ!」 ユモトが巨大な氷柱の剣を飛ばすが、剣で薙ぎ払われ粉々になってしまう。「ちょっと眠ってなさいアンタ!」 ルーが雷を飛ばすが、盾を地面に突き刺すと、雷は盾の上を走り、接地面から地面へと放電されてしまった。 アシノは衝撃で2、3歩後退りするぐらいに思い切り力を込めてパンパンとワインボトルのフタを飛ばした。 それは男の顔に直撃し、倒れるが、またすぐに立ち上がる。 本来であれば気絶か致命傷にもなり得たはずだが、裏の道具に体を支配され、感覚が麻痺しているのだろう。「頼む、正気に戻ってくれ! 私はお前と戦いたくない!」 モモは叫んでいた。 しかし、もう声は聞こえていても意味は伝わらないだろう。 振り回される剣をモモは無力化の盾で受けながら、どうにか男から武器を奪えないか考える。そんな最中で敵の背後を捉えたのはユモトだった。 今なら確実に捉えられて。 殺れる。 ユモトはギュッと目を瞑って覚悟を決めた。 そんなユモトの肩に手が置かれてビクリとし、思
「飛んで行っちゃったけど大丈夫かしら……」 あまりに急のことでアシノ達はヨーリィが飛んでいった方角を見つめることしか出来なかった。「ヨーリィなら多分、上手いことやってくれているだろう」 念の為、防御壁を張り続けているユモトの代わりにルーが探知盤を見る。「ヨーリィちゃんが飛んでいった方向に2つ反応が向かっていってるわ!」「よし、私達も行くぞ!」 森の中で既に事切れている男、そのそばにはヨーリィが居た。男から裏の道具である弓矢を回収し1人で立っていた。 ヨーリィは探知盤を持っていなかったが、森の中を進む不穏な気配を察知している。 アシノ達は大きな音を聞いて立ち止まった。メキメキという大木が倒れる音だ。それが何度も聞こえてくる。「この音は……」 モモが言うとアシノが推測を答える。「多分だが、裏の道具を持って調子に乗ったやつが暴れてるんだろう。急ぐぞ!」 音の鳴る方へ皆走る。そして言葉を失った。 まるで大嵐でも通り過ぎたように木々がなぎ倒されている。「ヨーリィ! 何処だ!」 アシノが大声を出すが、返事はなく。人影が1つコチラへ向かってヨロヨロと歩いてきた。「ごめんなさい、魔力が尽きた」 ヨーリィだった。モモが走って抱きかかえるとヨーリィが表情を作っていた、今まで見たことが無いような苦しそうな顔だ。「おいおい、イモってんじゃねーぞ!!」 ヨーリィの後ろから声が聞こえる。それと共に木がコチラに向かってメキメキと倒れてきた。「暴れ過ぎですよ」 もう1つ声が聞こえる。最低でも2人敵がいた。アシノはユモトに命令をする。「ユモト! あっちに向かって照明弾を打ち上げろ!」「はい、わかりました!」 パスンパスンとユモトが照明弾を打ち上げると、その光に照らされた人影が見えた。どちらもキエーウの証である仮面を被っている。 1人は刀身が2メートルはあろうかという両手剣を持ち、もう1人は棺桶の先を尖らせた様な大きな盾を持っていた。「やれやれ、まだこの裏の道具達の能力を理解していないというのに……」 盾を持つ男がそう言うと、剣を持った男が笑って答える。「そうか? 俺は分かったぞ?」 そして両手剣で木を切りつけたが、刃は空を切る様にすっと通り、木は何事も無かったかのように立ち続けていた。「切れ味がメチャクチャ良い! それだけで十分じゃねーか
「今の私達では裏の道具持ちと戦うのは危険だ。ムツヤとの合流、カバンの奪還が最優先だ」「そうねー、1人1人で戦っても負けるのが目に見えてるし」 モモがぼんやりとしている事に気付いてアシノが言う。「モモ、お前が居なければ私達は死んでいたかもしれない。感謝する」 それからアシノは頭を軽く下げて続けた。「それと嫌な役目を任せてしまってすまない。気持ちはわかるが、今はムツヤと合流する事だけを考えてくれ」 モモはパンっと自分の顔を叩いてから返事をした。「はい、急ぎましょう」 アシノは死んだキエーウの男に片手で素早く祈りをした。モモもそれに習い、皆は先を急いだ。 恐らくエルフの村から一直線に、一番遠くにある反応がカバンだろう。それを倍以上のスピードで追いかけている点がムツヤのはずだ。 ムツヤは今、魔剣ムゲンジゴクのレプリカしか持っていない。 しかし、サズァンから貰ったネックレスと裏の連絡石のおかげで反応が分かる。「ギルス、ムツヤと繋いでくれ!」「分かった、ちょっと待ってろ」 走りながらアシノはギルスに連絡を入れた。しばらくしてムツヤの声が聞こえてくる。「アシノさんでずか!? 今カバンを持ってる奴を追いかけているんですが、他に道具を持っていった奴もいて!」「ムツヤ、お前はカバンを取り戻すことだけ考えて走れ!」「わがりまじだ!」 ムツヤとの連絡が終わり、石を仕舞おうとした時にちょっと待ってくれとギルスの声がした。「おい、何人か引き返してきているぞ!」「僕たちを、倒しに来たんですかね……」 ユモトの予想は当たっているかわからない。しかし反応が向かう先を見て答えが分かってしまった。「っ!! そうか、エルフ亜人だから!!」 ルーの言う通りだ。裏の道具の反応がエルフの村へと近付いて行っている。「道具の試し打ちにはもってこいって所か、私達も引き返すぞ!」 アシノの号令
「待てルー!! カバンがアイツ等の手に渡ったらどうなるか分かってんのか!?」 アシノに咎められたルーだったが、ナイフを突きつけられているエルフを見て他の方法を考えてみても代案が無い。「ムツヤ、走ってアイツを倒せないか?」「やだわぁん、ひそひそ話なんて。ちょっとでも変な動きをしてみなさい。この子は死ぬわ」 ムツヤ達はキエーウの連中を睨みながら立ち尽くすことしか出来なかった。「ほら、カバンをこっちに投げなさい」 ムツヤは苦い顔をしながらバッグを肩から下ろして放り投げた。キエーウのメンバーがそれを拾って立ち去っていく。「カバンは渡したわよ。開放しなさい!!」「駄目よ、もうちょっと遠くに逃げるまで待っていて貰うわ」 すぐに追いかけてカバンを取り戻せたらという甘い考えは打ち砕かれた。「ただ待っているってのも暇ね、お喋りでもしましょうか?」 ウトナはそう言ってムツヤを見る。「お前なんかと話すことはない!!」「あらぁん、釣れないわぁん。でもね、聞いてくれるだけで良いのよ?」 そして勝手に話し始めた。「エルフは長命だから無駄に知識をもっているわ。そして自分達が1番賢い種族だと思い他の種族を見下すの。それはさっきわかったでしょう?」「それを言ったらあなた達こそ何なの? 人間が1番だと、おごり高ぶって、そんな変な仮面まで付けて」 ウトナの言葉にルーは言い返した。「他種族が居るからこんな争いが起こるのよ? 人間が選んだ者以外きれいサッパリ殺しちゃえば、今こんな争いも起きてないわ」「お前らはつくづく1か0かでしかモノを考えられないんだな。人間同士でも争いも戦争も起こるし、他種族とも分かり合うことができる」 今度はアシノが言い返すが、ウトナは鼻で笑った。「まぁいいわ、あなた達とお喋りしても無駄みたいね。それじゃこの子は返してあげる」 宿屋の夫妻が安堵した次の瞬間だった。ウトナは短剣をカノイの背中に突き立て、一気に押し込んだ。
5体いる水の精霊がエルフへ襲いかかるが、矢で射抜かれパシャパシャと水へ帰る。 その間を縫ってヨーリィが飛びかかり、ナイフで弓の弦をピンと切り裂く。それはしなって細長い棒へと変わり、武器としての役目を終えた。「モモ、2人に任せて逃げるぞ」 アシノが小声でモモへ伝える。「ですがっ!!」「武器もない私達が居ても出来ることは何もない。外へ出て武器かムツヤを探すぞ」 2人の仲間を見捨てるようで心苦しかったが、モモはアシノの後を付いて窓から外へ出た。 その後ろでは短剣でエルフの男がヨーリィに斬りかかっていた。先を丸めた木の杭を手に投げつけ当てると、痛さで思わずエルフは短剣を落とした。「やるわね、ヨーリィちゃん。私の出番は無いかしら?」 時間を掛け、より強力な水の精霊をルーは召喚した。そして風呂場のお湯を吸い込みあげて発射させる。 水鉄砲を喰らい、エルフ達は怯んでいた。態勢を崩して倒れる者もいる。 先頭に居たエルフの娘カノイも両手を前に出して水から身を守っていた。 ヨーリィは致命傷を与えるためにカノイの元へと走る。それを察したルーが言う。「ヨーリィちゃん、駄目!!!」 ナイフは首元でピタリと止まった。そしてヨーリィは後ろを振り返る。「今のうちに逃げるわよ!!」 ヨーリィは質問をするでもなくコクリとただ頷いてルーと共に窓から外へ脱出した。 モモとアシノは体にタオルを巻きつけて宿の外を走った。素足のため地面の石が痛いが、そんな事を気にしている場合ではない。 隣の男湯へと向かうとムツヤとユモトが居た。アシノはガラスをドンドンと叩く。近くで体を洗っていた宿泊客がそれに気づいた。「ち、痴女だー!!!!」「違うわ!!!」 叫びに気付いてムツヤとユモトは振り返る。「え、アシノさん!? も、モモさん!?」「早く開けてくれ、エルフ達の様子がおかしいんだ!!」 ユモトは急いで駆け寄り窓を開ける。それと同時に男湯の入り口に見覚えのある人間がやってきた。「あらぁん、やだわん、男湯なのに女がいるじゃない」 以前ムツヤ達を襲撃したオカマであり、キエーウの一員ウトナだ。「お、オカマだー!!!!」「うるさいわね、ちょっと眠ってなさいあんた!」 ウトナは杖から催眠魔法を放ち、宿泊客を眠らせた。「またお前たちの仕業か」 しかし、おかしいとアシノは思っ
「外の世界は危険だ、お前が行ってもすぐに怪物の餌食になってしまうだろう」 組んでいた腕を崩してタカクは続けて言う。「しかし、あの裏の塔の最上階にまで行けるぐらい力を身につけたらこの結界を解いて外の世界へと行かせてやろう」 その言葉を聞いた日からムツヤは塔の最上階を目指す日々が始まった。 物心が付く前から塔の60階までは冒険をしていたムツヤだったが、そこから先の階段には『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』が居る。 近付きたくなかったので、いつもそこまで行って帰ってを繰り返していた。 それでも塔は毎回入る度に使い道も名前も知らないけど、面白そうな物がたくさん落ちている。 そし
ムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。 月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。 拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」「なんだ」 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」「何を気持ち悪いことを言っている
「……、どういう事よ」 ルーはジト目でアシノを見つめた。「ここを私達の拠点にして彼奴等を迎え撃つんだよ」「この様な場所で良いのでしょうか?」 ユモトも不安そうに尋ねた。アシノは一体何を考えているのだろうと。「こんな場所だから良いんだよ、ここは街が近いからどこから攻められてもすぐに駆けつけられる」「それなら街の中に居れば良いじゃない!!」 ルーがもっともらしい意見を言うが、アシノは首を振る。「ぶっちゃけた話、あの魔人に抵抗できるのはムツヤぐらいしか居ない。だが、ムツヤは正体を隠さなくてはいけない」「そんな事知ってるわよ」「だからムツヤには正体不明の冒険者になって貰わなくちゃ
藁にでもすがりたい思いのモモは目の前の男を信じてみることにした。 妹も仲間もどの道、何らかの手を施さなければ死んでしまうかもしれない。「信じるな! そいつは嘘を付いている! そんな薬が存在しているはずがない!」 声のする方をモモとムツヤは同時に見た。 茂みに殴り飛ばされたオークの一人が顔を抑えながら立ち上がり、モモに警告を入れる。「バラ…… しかしもう何も手が……」 バラと呼ばれたオークの男は脳震盪から回復し、その間は体が動かせなかったが、数分前からぼんやりとした意識はあった。 そして、二人のやり取りを聞いていて思った。自分は一瞬で治せるが他人は治せない魔法







