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一番てっぺんに! 3

last update publish date: 2025-10-24 20:46:52

 ムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。

 これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。

 大きい方をした後のエチケットだ。

 もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。

 部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。

 さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。

 ムツヤは知らない事が多い。

 触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれば一吸いで昏睡状態に。ゆっくり深呼吸すれば次の瞬間にはあの世へ行っている毒ガスだと言うこと。

 触手で触られれば痒みを感じるどころか、その部分から細胞の壊死が始まり体が腐り落ちる事を。

 それでは、何故ムツヤは平気なのかと言うと、おそらくどんな病気も治す幻の秘薬を小さい頃からジュース代わりにガブガブと飲んでいるからだろう。

 長年気持ち悪いと思っていたトカゲが消えて、ムツヤはもっと早く倒しておけば良かったかと思いながらもちょっとした喪失感を感じた。

 ヤツが居た場所には鱗が数枚落ちていて、変わった匂いも、触って皮膚がどうこうなる事も無かったので、とりあえずカバンにしまって階段を登り始める。

 ここから先は未知の場所なので少しだけ身構えたが、そんなムツヤの心配は杞憂に終わり、どのモンスターも一撃で真っ二つに出来た。というか素手でも倒せるぐらいに弱い。

 それから塔の内部の森を抜け、砂漠を抜けてこれまた1時間もしない内におそらく最上階付近まで来た。

 そこには開けた広間があり、天井からはガラス製の燭台がいくつも垂れ下がっている。

 床にはフカフカの赤い絨毯が広がっている。そして奥の大きな扉の前の豪華な椅子に何者かが座っていた。

「あー、やっと登ってきたのね」

 突然の声にビックリしてムツヤの視線は釘付けになる、人影だ。

 暗闇の中で蝋燭の光を浴び、黄金色に赤みを含ませて照らし出される椅子、そこから誰かが立ち上がるのが見えた。

 剣先をそちらに向けたまま姿をよく見てみる。

 一歩一歩近付いてくる相手は自分とは違う褐色の肌、長い髪は真っ白。

 だが同じ白髪でもじいちゃんとは違う感じだなとムツヤは思った。

 なんというか高級感がある。例えるならたまに拾う上質なローブの様な感じの艷やかな髪だ。

 目の上や唇、爪などは毒々しく紫色で、火に照らされて怪しく揺らめいていた。

 纏っている触り心地の良さそうな上質な服は、たまに塔の中で拾い『それは女が着るものだと』教えてもらった服と似ている。

 それらは外の世界の本で挿絵のヒロイン達が着ている『ドレス』や『ローブ』に似たものだった。

 目の前の人間が着ているのは、無理に例えろと言われればローブが近いだろうか。

 胸を隠しているが、胸元ははだけさせ、胴体は布を纏わずに、腰から床付近までを長い布がぐるりと覆い、横に切れ目が入っている。

 その面積が少ない布が支える胸の筋肉ではない2つの大きな塊と、何故か分からないがドキドキするこの感じ。

 この鼓動は相手の正体がわからないからという理由だけではないと直感でわかった。

 戦いでなる鼓動とは少し違う、この感覚はどちらかと言うとあの小説を呼んでいる時の感覚に近い。

 そうだ、小説の挿絵や描写と照らし合わせても完全に一致だ。

 その相手はムツヤが初めて出会う女という生き物だった。

「あ、お、あ、えっと、は、はじめまして俺じゃなくて、私はムツヤと言いまず!」

 外の世界に出た時の挨拶をずっと練習してきたはずが、さっとその言葉を言えずムツヤは顔が赤くなってしまった。

「はじめまして、ねぇー…… 私は『はじめまして』じゃないつもりだったんだけどもな~」

 そう言って女は近づいてくる。

 最上階付近ということもあり、知能の高いモンスターの可能性は捨てきれないのでムツヤは剣を構えたままだ。

 人のようなモンスターはよく見かけたが、奴らは言葉も話さず襲いかかってくる。

 だが、今回はそうではない。

 今のムツヤには相手の正体が誰かわからないままだ。

「私の名前はサズァン、いわゆる邪神様ってやつよ」

 邪神。外の世界の本の中にも書いてあった。

 ムツヤの中で邪神というのは、人を呪い、時には殺すよりも残酷なことをするらしい何か凄くヤバイ奴ぐらいの認識だ。

「その邪神様が何のようでごじゃ、ございますでしょうか」

 相手をからかっている訳ではない。

 ムツヤはいたって真面目だが、慣れない尊敬語を緊張しながら使った結果このような言い方になってしまったのだ。

 するとサズァンは口元を手で隠してクスクスと笑い始めた。

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